北津軽の冬には、厳しい自然への熱い情感が漂っています。雪は山を閉ざし、川を埋め、強い西よりの風は、そこに住む人たちやそこを訪れる観光客の心を震わせることもあります。
そういう北津軽の冬の厳しさは反面、厳しいがゆえの強い力を私たちに与えてくれることがあります。
悲しみの土地七里長浜
その厳しい冬を代表するのが、青森県つがる市の日本海側に位置する「七里長浜」 の風景です。七里、つまり28キロもある長い海岸線に人影は少なく、その荒涼とした佇まいは一見、悲しげにさえ思えて来ることがあります。
しかし、わたしたちが旅をする理由はさまざまです。紺碧の空と青い海という風光明媚な土地を求めて旅する人がいれば、名所・旧跡を生涯学習の場として選択する人もいれば、そして、あえて悲しみが感じられる土地を選ぶ人たちもいます。
出所:http://www.aptinet.jp/OR_0_640_00000055_5.jpg
冬の七里長浜は、悲しみの土地です。近くに電車が走っているわけではありません。車や便数の少ないバスでしか訪れることができません。しかし、冬の日本海特有の荒れ狂う海を眺め、強い西風に我が身を預ける時、生温かな「生きる力」みたいなエネルギーが、自分の心のひだからわき上がってくるのが実感できるかもしれません。
それは、遠い昔、太宰治が感じたことでもありました。
太宰の愛した七里長浜
太宰治は、津軽半島の小泊に住む乳母のけいさんと再会する際にも、七里長浜に立ち寄ったと言われています。小泊からさらに北にある竜飛崎には太宰治の文学碑もあります。
出所:http://blogs.yahoo.co.jp/houzan_ky/25419844.html
もし、皆さんが太宰のように小説を書く人間でなくても、太宰のように破天荒な生き方をしている人でなくても、冬の七里長浜は、皆さんを温かく迎えてくれるはずです。
悲しみが感じられる土地は、悲しみを増幅させるわけではありません。逆に、悲しみが感じられる風景に触れると、元気になることのほうが多いのです。夏の七里長浜はさまざまな花が咲き乱れて、その明るさと美しさを競い合っています。しかし、訪れてほしいのは冬の七里長浜です。
小拍から取れる新鮮な魚介類を使った津軽グルメ
さて、七里長浜がある北津軽の土地は、冬ならではのおいしい料理も味わえます。太宰の乳母、たけさんが住んでいた北津軽郡中泊町小泊にも、おいしい食事処がたくさんあります。
お勧めしたいのが、やはりお寿司です。小泊港に水揚げされた新鮮な魚介類は格別です。お寿司屋さんによっては、ヒラメや本マスなど、北津軽ならではの冬魚を握ってくれる所もあります。
でも、最大の冬のグルメは、秋田から青森にかけての日本海で獲れる真鱈をあますことなく鍋にした「じゃっぱ汁」だと思います。
出所:http://travel.rakuten.co.jp/select/tohoku/201012/02.html
そして、最近は漁獲量の激減から高級魚になってしまったホッケの料理も忘れてはなりません。ほとんどの人は、ホッケは干物でしか食べてこなかったと思いますが、このホッケの握りはこの世のモノとは思われないほどおいしいのです。
出所:http://r.gnavi.co.jp/1dmsz5h40000/kodawari/
しかし、ホッケは足の早い魚なので、その日の朝に水揚げされた生のホッケは地元でしか食べられません。また、ホッケのすり身汁は、この地方の人たちがよく食べていた料理です。
ちょっと前までは、安い魚の代表だったホッケが高値になったので、この地方の人たちも困っていることでしょう。しかし、ホッケのすり身汁は津軽のどんな料理屋さんでも提供しています。
人を遠ざけるような荒涼とした七里長浜を眺めた後、「じょっぱ汁」と「ホッケのすり身汁」で、冷え切った身体を温める旅は、本当に贅沢な冬の旅です。厳しい冬の寒さに触れてこそ、人の優しさが身にしみてわかるというものです。
さあ、北津軽、冬の七里長浜へ旅立ちましょう。
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